3.11の日、わたしは自宅にいてまだ言葉のよくわからない上の子とお腹の中に下の子を妊っていた。
何度も繰り返す地震の中、家の中にいては2人を守れないかもしれないと家の門の前でひたすらつながらない仕事場にいる夫の携帯に電話をかけ続けた。
3.11を描いた2023年都民芸術フェスティバル『家路』を観た。
井上恵美子氏の振付、構成は悲観的になりすぎず、生物の生き生きとした生命力を描いたかと思うと劇的な展開をみせる。
"Chaconne in G maja"には泣かされた。(演奏は、ハイフェッツだろうか…)
息づかいを感じる石川雅美氏、ユーモアを感じる村松卓矢氏、そして悲哀に満ちた下村由理恵氏。
特に下村由理恵氏の演技は真に迫っていて…泣いた…
わたしは下村由理恵氏の作品で泣かなかったことはない。なぜなら、本当の苦しみや悲しみ、そこから立ち直った人間の強さ……人間の「どん底」を感じさせる力があるからだ。
だからこそ、ダンスを知らない人間にも届く何かがある。
ロビーに廃材を扱ったアートがあった。
その後側に写真を見つけた。結婚式の写真だ。
「もしかしてこの人たちは被害にあった人なのかな…」と一緒に観劇した生徒と想像した。
その生徒は、舞台を観てはじめて泣いたそうだ。
彼女は、まだ幼児だったため3.11の記憶はない。
しかし、舞台上に流された映像、演出、ダンサー、観客が泣く姿などをみて共鳴したそうだ。
こんなふうに記憶は引き継がれていく。
だから人間としてのわたしたちには、みんな同じ所に帰るための…人ならば同じ気持ちを持つはずの家へ向かう…「家路」があるのだと思う。
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